Ⅲ-Ⅴ族系多接合型太陽電池の特徴

 GaAs太陽電池のページでも紹介した通り、Ⅲ族のガリウム(Ga)とⅤ族のヒ素(As)からなる、GaAs太陽電池は単接合の状態でも非常に効率の高い太陽電池です。

 しかし、GaAs太陽電池においても太陽光エネルギーの内で利用できていない部分があるため、他のⅢ-Ⅴ族系化合物半導体との多接合構造としてより多くの太陽光エネルギーを利用する研究が行われており、2013年4月にシャープがⅢ-Ⅴ族系3接合型太陽電池で37.9%という、現在研究されている太陽電池の中で最も高い変換効率を実現しています。

 下の図はⅢ-Ⅴ族系3接合化合物半導体太陽電池と多結晶シリコン太陽電池の構造及び太陽エネルギーの利用範囲を比較したもので、Ⅲ-Ⅴ族系3接合化合物半導体太陽電池では太陽光エネルギーが広い範囲で利用されていることが分かります。

Ⅲ-Ⅴ族系多接合型化合物半導体太陽電池の構造
Ⅲ-Ⅴ族系多接合型化合物半導体太陽電池と多結晶シリコン太陽電池の比較
画像提供:NEDO

 このⅢ-Ⅴ族系3接合化合物半導体太陽電池はGaAs単接合太陽電池と同様、非常に高価ながら高い変換効率を発揮するため、宇宙用途やソーラーカーレースなど特定の分野で実用化が進んでいます。

Ⅲ-Ⅴ族系多接合型太陽電池の長所

 Ⅲ-Ⅴ族系多接合型太陽電池は、光吸収係数やエネルギーバンドギャップの大きさに起因する変換効率の高さが、最大の長所となっています。

 また、下の表のようにⅢ-Ⅴ族化合物半導体は結晶構造が同一で格子定数の値が近く混晶を形成しやすいため、混晶により格子定数を調整することでタンデム(多接合)構造を作りやすいという点も、より高効率の太陽電池を開発するうえで非常に有利な点と言えます。

化合物 結晶構造 格子定数
[Å]
エネルギーバンドギャップ
[eV]
AlAs ZB 5.6605 2.15
AlSb ZB 6.1355 1.62
GaP ZB 5.4512 2.27
GaAs ZB 5.6533 1.42
GaSb ZB 6.0959 0.75
InP ZB 5.8686 1.34
InAs ZB 6.0584 0.36
InSb ZB 6.4794 0.18
 ZB:閃亜鉛構造

 この他にもGaAs太陽電池と同様、耐放射線性や低い温度係数といった特徴を有しており、宇宙用や集光用の太陽電池に向いているという特性も持っています。

 GaAs太陽電池の長所をまとめると以下のようになります。

  • 変換効率が高い
  • 混晶を利用することで多接合構造が作りやすい
  • 高温時の出力低下が少なく集光用による高温化でも高い変換効率が期待できる
  • 放射線に強く宇宙での使用に適している

Ⅲ-Ⅴ族系多接合型太陽電池の短所

 Ⅲ-Ⅴ族系3接合化合物半導体太陽電池は上記のように多くの優れた特徴を持っていますが、GaAs単接合太陽電池と同様に単結晶ウェハのコストが非常に高く、それに伴って製品価格も高くなってしまうため、現状では使用用途が宇宙用やソーラーカーレース用などに限られています。

 ガリウム(Ga)やインジウム(In)といった希少金属(レアメタル)を原材料として使用していることも、高コストの要因となっています。

 また、タンデム構造の単結晶ウェハを作るために用いるエピタキシャル成長法は、エレクトロニクスデバイス用の製造装置を用いて実現されるため、大面積化が困難という課題も存在します。

 なお、原材料として毒性元素であるヒ素を使用することも、環境負荷の観点から見たデメリットの一つと言えます。

 Ⅲ-Ⅴ族系多接合型太陽電池の短所をまとめると以下のようになります。

  • 原材料となる単結晶ウェハが高価
  • 単結晶ウェハの大面積化が困難
  • 原材料に希少金属(レアメタル)であるガリウムやインジウムを含んでいる
  • 原材料に毒性元素であるヒ素を含んでいる

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