東大、スピン反転励起が可能な新色素DXを用いて色素増感太陽電池の広帯域化と高効率化に成功
東京大学は、同大学先端科学技術研究センターの瀬川浩司教授、木下卓巳特任助教らの研究チームが、従来の光化学の常識を覆すスピン反転励起が可能な新色素の合成に成功し、色素増感太陽電池が発電に利用できる光の波長範囲を広げることに成功したと発表しました。
製造コストが低いことや太陽電池自体に着色が可能なことから注目されている色素増感太陽電池ですが、使用される色素が利用可能な光の波長範囲が狭く、変換効率を高めることが難しい点が課題となっていました。
しかし、今回の東大の研究では、これまでの光化学の常識を覆す、光を吸収する際に電子の持つスピン(※)の向きを反転させることができる新色素DXを合成し、このDXを用いた色素増感太陽電池に可視光から1000nm以上の近赤外光までの広い波長範囲の光を吸収させ、非常に高い変換効率で発電させることに世界で初めて成功しています。
これまで色素増感太陽電池で良く使われてきたRu錯体色素では、光吸収の過程で項間交差という熱的にエネルギーを放出しながら電子の持つスピンが反転する現象が発生し、エネルギーの損失が発生していました。
これに対し新色素DXでは、項間交差を伴わないスピン禁制遷移での光吸収を行えるため、エネルギー損失を抑制し近赤外光を高効率で変換することが可能となっており、この新色素DXを用いた色素増感太陽電池では、ソーラーシミュレーター(100 mW/cm-2, AM1.5G)を用いた測定で、有機系太陽電池史上最も高い短絡電流密度(JSC)となる26.8 mA/cm-2を達成しています。
また、新色素DXを使用して製作した太陽電池と別の色素を使用して製作した太陽電池を積層させたタンデム型色素増感太陽電池もあわせて開発され、この太陽電池ではこれまでの有機系タンデム型太陽電池におけるエネルギー変換効率の世界記録を超える12.8%という変換効率を達成しています。
このタンデム型色素増感太陽電池では、原理的に30%を超える変換効率を達成することが可能とのことなので、今後の研究成果が期待されます。
※スピン:電子が持つ磁気モーメントのこと。これまでは分子が光吸収を行う過程でその向きは変化せず、一定であることが一般的な光化学の常識となっていました。